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がんとがん保険

1981年以降、日本人の死因のトップはがんで、2008年には死亡者数全体の30%を占める(厚生労働省「平成20年人口動態統計」より)。本稿では、「国民病」とも言われるがんについて、病気の概要、がんと公的保険との関係、がん保険について取り上げる。

「がん」という病気

がんの正式名称は、悪性腫瘍または悪性新生物という。本来、人の体は数十兆からなる細胞で構成されており、常に一定数量を保つように制御されている。悪性腫瘍はこの制御ができなくなり、無制限に浸潤性に増殖し転移し、正常な組織を機能不全に陥らせてしまう。WHO(世界保健機関)によると、2005年に世界で死亡した5800万人のうち13%(760万人)はがんが原因であった。
 がんは、造血器、上皮細胞でできる「癌腫」と、非上皮性細胞(間質細胞)からなる「肉腫」に分類される(両者が混在する、癌肉腫というものもある)。造血器以外でできるがんは、固まりを作って増殖するので、固形腫瘍(固形がん)とも呼ばれている。「上皮内がん」と呼ばれる上皮内腫瘍は、上皮細胞と間質細胞を境界する基底膜を破っていない(浸潤していない)状態をいう。つまりこの部分を切除すれば治すことができる。そのため、がん保険の約款などでは上皮内がんを別枠で捉えている場合もある。
 発がんの要因は、ウイルス性、環境要因、化学物質、遺伝的要因など様々考えられるが、すべてが明らかになっているわけではない。しかし、生活習慣との関連性は非常に高く、米国ハーバード大学がん予防センターによると、喫煙、食事、運動、飲酒ががん要因の68%を占めている注1という。
 日本人が生涯がんに罹患する確率は、男性53%、女性41%で、2人に1人はがんにかかる可能性があることがわかっている。また、死因のトップではあるが、1993~96年にがんと診断された人の5年相対生存率は、男性49.2%、女性59.4%、部位別では、肝臓と肺は20%前後と低いものの、胃は60%前後、大腸、直腸、結腸は60~70%、子宮は70%以上、乳房は80%以上を示しており注2、がんは決して治らない病気ではなくなった。

がんと先進医療

がんが不治の病でなくなったのは、医療の発展によるところが大きく、最先端の医療技術のなかには、がん治療に係るものが多く含まれている。この、最先端の医療技術のうち、厚生労働大臣がその種類および実施医療機関を定めたものを先進医療という。先進医療は公的医療保険が適用される保険診療ではないものの、保険診療との併用が認められている。
 通常、保険診療では、患者はかかった医療費の一部を自己負担する。一方、保険が適用されない自由診療では、医療費全額が自己負担になる。また、自由診療と保険診療の両方が混在した場合、混合診療が禁止の原則から、特定療養費の例外を除いて、保険診療部分も含めた医療費全額が自己負担になる。この特定療養費のなかに先進医療が含まれている。
 平成22年8月1日現在、先進医療技術は116種類(薬事法未認定・適用外の第3項先進医療技術29種類も含む)、実施医療機関は延べ942である。前述のとおり、先進医療は保険診療との併用が認められているので、先進医療にかかる費用は全額自己負担になるものの、診察料や検査料、投薬料、入院料などは公的医療保険の適用が受けられる。ただし、承認された医療機関以外で先進医療と同様の治療や手術を受けても先進医療とはみなされず、すべてが公的医療保険の対象外となり診察料等を含め全額を自己負担しなければならない。なお、先進医療の種類や実施医療機関は変動している。
 がんにかかわる先進医療には、「重粒子線治療」や「陽子線治療」など、医療費が高額になるものがある(図表1参照)。このうち、近年特に注目されているのが重粒子線治療である。広範囲に転移したがんには不向きであり、また、固形がんの治療に限られているが、重粒子線(炭素イオン線)を体外から患部に集中照射するため周辺正常組織へのダメージが少なく、また従来の放射線治療と比べて副作用が格段に少なく、短期間での治療が可能になる、と言われている。

がん保険

がん治療では、一般に、外科療法、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法、あるいはそれらの組み合わせによる治療をはじめ、定期検査など根治あるいは緩和のため長期にわたる継続的な治療や検査が必要となる。この間、支出が膨らむだけでなく収入の減少も懸念されるため、もしもに備え、がんに特化した保険に加入しておくのは、家計への負担を軽減するための1つの方法になるだろう。
 現在、日本で取り扱われているがん保険の主な給付金について図表2にまとめた。ただし、すべての保険商品に共通したものでない点はご留意いただきたい。

図表2■がん保険の主な給付金(主契約・特約)

給付金(主契約あるいは特約) 給付時 補 足
診断給付金 医師からがんと診断されたとき
  • 通常、診断確定時(入院を要件とする場合もある)に一括給付
  • 上皮内新生物は対象外や減額される場合がある
  • 診断のたびに複数回受け取れるものもある(ただし前回給付から2年または3年以上経過などの制限あり)
入院給付金 がんで入院したとき
  • 概して、入院日数を制限せずに給付
手術給付金 がんで所定の手術を受けたとき
  • 一般に、入院給付金を基準に手術の種類によって給付額(給付倍率)が決まっている
  • 手術のたびに給付
通院給付金 がん治療のために通院したとき
  • 一般的に退院後の通院治療が対象とされる
  • 1回の入院後の治療につき30日/45日、通算730日などの日数制限付きのものが多いが、日数無制限のものもある
  • 入院前の治療や入院を伴わない治療などに対して給付金が出るものもある
先進医療給付金 先進医療対象の治療を受けたとき、その技術料
  • 先進医療の技術料を保障(通常、実費)
  • 通算支払い限度額が決まっている場合が多い
  • 入院の有無を問わないものもある
乳房再生給付金 乳がん等で乳房を切除し、乳房再建手術を受けたとき
  • 常、1乳房につき1回
抗がん剤治療給付金 抗がん剤治療を受けたとき
  • 入院の有無を問わないものもあるが、がんによる入院とその前後の通院における抗がん剤治療に限るものもある
  • 毎月、一定額を限度期間まで給付
収入保障年金 がんと診断されたとき
  • 5年確定年金、保証期間付有期年金など年金形式で給付
がんターミナルケア給付金 余命6カ月以内と判断されたとき
  • 診断時に一括給付
無事故給付金 3年、5年など無事故判定期間中、もしくは保険全期間中にがんと診断されなかったとき
  • 5万円、10万円などの一定額、もしくは支払保険料相当額を給付
健康支援給付金 一定期間が経過したとき
  • がんの罹患を問わない
  • 検診費用のサポートが名目だが、検診以外に使っても可

資料:筆者作成

ところで、がん保険に加入する際に保障内容だけでなく、保障期間や保険料払込期間にも気をつける必要がある。保障期間は終身のものが多いが、ある一定年齢に達したら保障内容の変わるものや、定期型や更新型で保険料が高くなっていくものもある。また、ほとんどのがん保険は責任開始期から90日間は免責である。さらに、がんの治療には、経済的な負担だけでなく、医療面や精神面の負担も重い。これらをカバーするサービス(図表3参照)を提供するがん保険もあり、選択する場合には十分考慮する必要がある。

がん保険に限らず、一般の医療保険に付帯できる各種の特約でもがん治療対策に利用できる。例えば、三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)のいずれかだと診断された場合に給付される「三大疾病一時金特約」、がんなどの生活習慣病になった場合に通常の入院医療保険(入院特約)に上乗せで給付される「生活習慣病特約」などがある。さらに、入院や自宅療養が長引き就業不能になり収入が途絶えた場合に備え、「所得補償保険」への加入も方法の1つに挙げられる。なお、保険だけでは治療費以外の経費がカバーできない場合もあるので、貯蓄で準備しておくと安心だろう。
 がんの治療には、高額な費用と長い年月、強い精神力、そして周りの協力が求められる。FPは単なる経済的助言だけでなく、家族の精神面などを含めたライフプランをサポートしていける存在でありたい。(FPジャーナル2010.10月号より抜粋)